エピジェネティクス進化論

Beyond selection

チリ大学のALEXANDER O. VARGAS教授によるレビュー論文。

ネオ・ダーウィニズムの概念的な枠組みである自然選択と定量的遺伝学に対する批判を展開している。

出典はこちら 「Beyond selection」


要約

自然選択と定量的遺伝学の研究が進化思考とチリでの学部生教育で中心的役割を持っているべきであると論じられてきた。 自然選択の概念を大規模に用いることは、この議論と矛盾しないように思われるかもしれない。 しかしながら、系統発生(学)的な分析、発生の進化、古生物学のような独立した分野において進化の知識が進んできたことを無視することはできない。 私はここで議論したいのは、現代の進化生物学における自然選択の役割が現代物理でニュートン力学の役割と比較することができるということだ。:それはある観察された範囲を説明することができるが、進化の知識の異なる情報源について十分に処理することができない。 自然選択を進化の直接的なメカニズムとして過剰に重視することは、系統発生(学)的ー歴史的証拠を無視し、非適応的な変化や、エピジェネティックな表現型の可塑性を無視することにつながるかもしれない。自然選択は、表現形に対して作用し、環境を遺伝的多様性の「こし器」であると見なされる。その結果、表現型と行動の多様化を引き起こす引き金としての環境の役割は回避される。 代わりに、生殖を超えた変化や個体発生の表現型を維持するときに、中間物がどのような役割に参加するのかを考えることができる。 現在、分子や発生上の変化において受け入れられている「漂流(drift)」という概念は、表現型のレベルへも適用できる。これは、自然選択による適応によって進化するという考えの代案である。


Introduction

・チリの学部生教育においては、進化を系統的に分類したり歴史的に見たりすることが優勢で、自然選択や定量遺伝学が正しく扱われていないとNespoloが批判。(Nespolo 2003)

 → 科学者の育成を荒廃させる

 → チリには、自然選択よりも構造的な決定論とオートポイエーシスに基づいた進化的思考が存在してきたから、非科学的、独断的な考えが生まれるのだ!

・Vargas:「自然選択は進化を理解する一般的な枠組みとしては不十分」

 → 自然選択ではない方法で進化を捉える方法は、非科学的ではない。

 → 自然選択による適応を疑うことが、実際の現象に沿って進化を理解するために必要。

チリでは、系統発生的な見方が優勢らしいことが意外。

自然選択の論理に真っ向から反論する意気込みが感じられる。

現在の進化研究:修正された描像

系統発生的な方法論の進歩

・自然選択と定量遺伝学の論理は、現在知られている広範囲のデータを適切に説明していない。

・系統発生学的な視点からの研究が劇的に進歩してきた。

(例)

 → この10年間で、脊椎動物(Shu et al. 1999), 鳥(Ji et al. 1998, Xu et al. 2003), 蛇(Caldwell & Lee 1997),海牛類(Domning 2001)の起源を理解するのに適当な化石の分類群が発見されてきた。

 → 1990年代だけで、中生代の鳥の種類の数は、それ以前に発見されていた数の3倍になった(Chiappe 1997)。

 → 動物門(Peterson &Eernisse 2001)や、両生類、鳥、哺乳類の主な部門 (Meyer & Zardoya 2003)の類似に対して、形態学的証拠と分子的証拠の両方が一致したことにより、新しい合意が得られた。

・歴史的、系統的な観点から進化が実際にどのように起こったのかを明らかにし、それに基づいて、進化のメカニズムについての仮説を立てるべき。

(重要な問題)

 → 系統発生(学)的な制約

 → 大量絶滅イベントにおける偶然と日和見主義の役割

 → 定方向選択の代わりとしての外適応の起源(Gould & Vrba 1982, Gould 2002)

・自然選択と定量遺伝学の論理は不十分であり、系統発生的、歴史的観点から得られ情報によって更新しなければならない。

(例)「は虫類で頭骨とあごを関節でつないでいる骨がどのように哺乳動物の中耳に変わったか」

自然選択が、自論に都合のよいデータを説明しているだけで、実際に見つかってきている化石から分かることなどを説明できないじゃないか!という批判

一般的な進化メカニズムであれば、さまざまなデータを総合的に説明しなくてはならない(自然選択説は、それを満たしていない)

進化発生生物学

・進化発生生物学は、進化研究に新しい洞察を次々ともたらしている。

・選択の論理は、変異が集団内で生き残ることには適用できるが、多様性が生まれるメカニズムにはならないことは広く認められている。

・発生は、「機械的に」生み出され、表現型の多様性を制限するのかどうか?(Wagner et al. 2000)

・分子発生生物学における現在の研究により、遺伝子型と表現型の関係が複雑であることが明らかになってきた (phenogenetics, Weiss 2005)。

 → 定量遺伝学の概念「少しずつ累積のされたいくつかの遺伝子の効果が、計量できる特徴の連続的な多様性を決めている」を超えている。

 → 胚のオルソロガスなの発現パターンについて分類群の間で比較した結果、相同関係、類似した特徴に関する重要な新しい証拠を得た。

    ※オルソロガス:遺伝子が共通祖先からの種分化に由来する

(例)

 → 前口動物と後口動物の類似点のいくつかは、適応主義者は収斂だと考えてきたが、似た分子−発生上の基礎を持つことが判明してきた。

 → 前駆分化、 背腹パターン、目の発生、装飾、目発達、非中心的、中心的な神経系発達、心臓の発生などの過程は、消化器官 地域化、分割と部下形成やパターン形成は、すべて、節減された発生メカニズムである。このメカニズムは、前口動物と後口動物の最も最近の共通の祖先においてすでに利用されていた。(reviewed byKnoll & Carroll 1999)。

・進化に対する証拠は、以前より増えているが、自然選択は、重要な役割をしていないように見える。 それは発生によって生み出された不成功の形態に対する単なるフィルターに過ぎない。

進化発生生物学(evo-devo)が、遺伝子型と表現型の関係性が複雑であることを解明してきた。

遺伝子が少し変わると、表現型が少し変わる・・などという単純なものではない。

自然選択 vs 自然漂流

発生経路の進化

・表現型の進化は、発生経路の修正によって引き起こされ得る(Hall 1998, Raff 1996)。

 → 発生経路の変化である例 (Wagner & Misof 1993),

・形質の発生経路が変化し得ることは、遺伝的、または、環境的要因が、ある表現型を引き出すときに、お互いに役割を交換できる(「フェノコピー(表現型模写)」や「ゲノコピー」)ことによって確かめられる。

・この場合、表現型は全く同じであるから、選択による差は存在しない。

・遺伝的、エピジェネティック的、遺伝子の交換などのどれであれ、形質が同じであれば、選択的に中立である (Weiss & Fullerton 2000)。

・エピジェネティックに引き起こされた表現型が、その後、本質的に遺伝する場合は、遺伝同化 (Waddington 1953, Palmer 2004) や、安定化選択(Schmalhausen 1949, cited in West-Eberhard 2003).の考えの下で議論されている。

・ 「ボールドウィン効果 」は、遺伝子型の特徴が増大するよりも、状況に対する感度が増加する方向へどのように進化するのかを説明することができる。

・概念的、経験的な理由によって明らかになったのは、遺伝的な相違よりもむしろ、エピジェネティックな可塑性のほうが、斬新な形質の誕生に影響するということだ。(Newman & Muller 2000, Muller 2003, Palmer 2004), with a role of genes as followers of the phenotype (Maturana & Mpodozis 2000, West-Eberhard 2003).

・進化生物学者は、現在、エピジェネティック可塑性に関心を抱いているが、自然選択が進化のメカニズムだと考えられていたときには、考慮されていなかった。

(理由)

 → 自然選択による進化では、環境の影響はおもに選択行為者か、遺伝的に決定される相違の「こし器」であり、表現型や行動の多様化を引き起こす役割や、進化的な変化の開始点であるという役割は見落とされている。

・進化研究において、個体と環境の間の関係を適切に理解することが重要だ。

・選択は、集団レベルにおける環境との関係に用いることはできるが、個体には用いることはできない。

・個体レベルでは、個体発生の表現型の維持、または、変化における個体発生のニッチとして環境が関与する(Maturana & Mpodozis 1992, 2000)。

・ 個体は生息地に存在しており、生息地は、より大きな媒質の部分である。媒質は容器として関与するだけでなく、個体発生が起こる生息地を含む領域として関与する。

・また、それは、個体発生の表現型が移行することや、血統の保存と多様化の歴史に沿ってエピジェネティックな多様性を生じる原因となる。

・適応的に中立な変化が起こるのか、または、形質の発生が遺伝的に引き起こされる(Weiss &Fullerton (2000))のかということは、エピジェネティックな場の発生経路が変化するという説によって説明することができる。個体発生の表現型と個体発生ニッチとの関係が変化しないときでも、それは可能である。

ここは重要なポイント

「表現型の進化は、発生経路の修正によって引き起こされ得る」

遺伝子の変化以外にも、形質が変化するメカニズムがあるのであれば、進化のメカニズムとして自然選択を考えなくてもよい。

表現型が先に変わって、後から遺伝子が変化するという場合もある。

選択の過大評価

自然選択による進化の証拠が蓄積し続けていることに対する解説

・自然選択による進化が起こっているという94個の証拠が提出された(Nespolo (2003))

・しかし、自然選択と定量遺伝学の論理は、証拠を必要とせず、いくつかの定性的な例によって理解されている。

・自然選択は、特定の範囲のデータを説明するためだけにしか用いることができない。

Nespolo(2003)が提出したリストのほとんどは、自然選択が起こっているという証拠にならない。

・自然選択による進化という概念は、形質が遺伝性を示し、そして、選択されることを必要とする。

・引用されている事例では、遺伝性と、形質の違いによってある方向へ選択されることの両方が示されている。

・遺伝性を持つかどうかは、環境の条件によって変わってくることがよく知られている(West-Eberhard 2003)。

・ある環境のもとで見られる遺伝性が、他の環境条件の下では消失する。

・自然選択説を受け入れるためには、頻繁に見られる自然選択によって進化が進まない場合との厳密な比較をする必要がある。

・結局、人為選択による進化や進化実験の結果は、自然選択の優位性を示したことにならない。

・人為選択による進化は、一様な環境の下で行われるため、環境によって引き起こされる多様性は少なくなり、遺伝的な違いは研究者による選抜によって生じる。

・一様な環境で、目的を持った人間によって選択されるような状況は、自然界ではほとんど存在しない。

・進化には、構造上、発生上、系統発生的な制約の条件があり、そのため、人為選択、自然選択ともに、多様性には限界がある (Thompson 1917, Whitman 1919, Gould 2002).。

・自然選択は、最近の進化の枠組みに比べて、予測力があると言われてきたが、進化生物学は、自然選択の論理と無関係に、明らかに予測力を持っている。

(例)

 →系統発生的な類推によって、クルードを発見 (Norell & Novacek
1992),

 ※クルード:共通の祖先から進化した生物群

 →アロメトリー成長のような、発達における傾向からの類推(Gould 1977)

 →始祖鳥と恐竜の間の系統発生的な類似点から、羽毛を持った恐竜が、feathered
dromaeosaurid やoviraptorid dinosaursの前に存在したに違いないと予測(Bakker
1986, Paul 1988)することができ、実際に存在した(Ji et al. 1998, Xu et al. 2001, Xu et al. 2003).。

人為選択は、環境からの影響による形質の変化が起こらない条件で実験している。

系統発生的な方法論も、予測力を持っている。

・ダーウィン思想の主な遺産のひとつは、「わずかな相違が、もし有益なら、自然選択によって維持される」という斉一論的な概念である。

・自然選択が、環境適応に対して有利か不利かのわずかの違いを探知して、子孫の生存に反映させ、わずかに有利な遺伝子を残し、わずかに不利な遺伝子を排除することができるのかどうかは、頻繁に議論されてきた。

・この考え方は、子孫の生存における適応に無関係の漂流や、エピジェネティクス可塑性を過小評価している。これらは、しばしば、遺伝子のわずかな影響よりも大きく影響する。

・定量遺伝学において計量される形質の連続的な変動や、遺伝子に生じたわずかな変化が蓄積するという仮定は、ダーウィンの斉一論的な概念に矛盾しない。

・しかし、1ステップの遺伝的、環境的変化によって、質的に異なる種の出現のような、大きな幅の変化を引き起こすことができる。

・漸進主義者や一般的な進化概念として小進化を捉える限界は、広い範囲にわたって議論されてきた(Gould 2002, West-Eberhard 2003)。

漂流(Drift)やエピジェネティクス可塑性は、遺伝子の違いよりも生存に大きな役割を果たすのでは。

選択の偏見:四足獣の足の場合

 


 


 

 

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