エピジェネティクス進化論

ポール・カンメラー(Paul Kanmerer)

画像は、Wikipediaからお借りしました。

 

カンメラーの研究

■カンメラーの実験方法

カンメラーは、いろいろな種類の対照群を使い、種々の複雑な実験計画に基づいた実験を行った。彼は、業者から入手する動物は、飢えていたり、餌をやりすぎていたり、神経質だったり、つがいになろうとしないことが多く、「甘やかされている」からという理由で使わず、 標本を自分で探した。

カンメラーが行った実験の多くは、動物をその自然の生息地とは極端に異なる環境下、例えば、異なる気候条件とか、黒土の代わりに黄土とか、で育て、体格、色、交尾習性などにおける変化を引き起こし、これらの適応のための変化が遺伝するかどうかを調べるというものであった。

ある場合には、人工的環境下で飼育した一世代目に、その他の場合には、5,6世代後になってから、それらの変化は遺伝するというのが、彼の論点だった。


■ サンショウウオの生殖実験

ヨーロッパには、アルプスに住むサラマンドラ・アトラ(アルプスサンショウウオ)と、 低地にいる斑点のあるサラマンドラ・マキュロサ(マダラサンショウウオ)の2種類が生息しており、その生態は異なる。

アルプスサンショウウオは、かなり大きな、立派にサンショウウオの形を備えた子供をたった二匹だけ陸上で生む。幼生の段階は子宮の中にいるうちにすぎる。

↑アルプスサンショウウオ(こちらからお借りしました)


一方、マダラサンショウウオの雌は、年に1,2回、10から50匹くらいの幼生を水中で生む。幼生は外えらをもったオタマジャクシで、わずか数ヵ月後には、サンショウウオに変身する。

↑マダラサンショウウオ(画像はこちらからお借りしました。)

カンメラーは、マダラサンショウウオを、乾燥した寒冷なアルプスと同じ気候下で飼育し、反対に、アルプスサンショウウオを、人工的な高温多湿の低地の気候で飼育する実験を行った。

人工的に作られた高地の気候下に移された低地のマダラサンショウウオは、幼生を産み落とすための川もないので、何回かオタマジャクシを流産したあと、ついには、アルプスサンショウウオと同じように、二匹の完全に発育したサンショウウオを生むようになった。

逆に、高温多湿の気候下へ移されたアルプスサンショウウオは、陸上にではなく、水中に子供を産んだ。子供は成育した形を取らず、オタマジャクシであった。産む回数を重ねるにつれて、その数も次々と増えていった。

第二段階として、これらの異常な生まれ方をしたサンショウウオをつがいにして、親の異常な生殖行動を確かに受け継いでいる兆候を第二世代が見せるかどうかを観察した。

サンショウウオが性的に成熟するのは4歳以降なので、これには数年かかった。(飼育されているものは、成熟がやや早い)

1903年の初め、雌雄40匹の異常な環境下で生まれたサンショウウオを使って実験に着手し、1906年から1907年にいたるまで、六腹(マダラのあるのが4腹、アルプス種のが2腹)のサンショウウオの誕生を観察した。

程度こそ異なれ、どの場合でも、全部、人工的に引き起こされた逆の生殖方法を示した。それゆえ、カンメラーは、実験データは、「これ以上望めないほどはっきりと獲得形質の遺伝」を示していると結論づけた。

■サンショウウオの体色変化の遺伝実験

変種サラマンドラ・マキュロサ・フォルマ・ティピカは、黒地に不規則な黄色の斑点がある。

カンメラーが、この種の一群は黒土の上で育て、一群は黄土の上で育てたところ、6年目に完全な成熟期に達したときに、体色が適応的に変化した。

カンメラーは、さらに、黒土に体色を適応させた親から生まれた子を黒土の上で育てた。その結果、子供は、背中の正午線に沿って一列に並ぶ黄色の斑点を持って生まれ、この斑点は次第に小さくなって消失した。

また、一方で、黄色に体色を適応させた親から生まれた子を黄土の上で育てた。その結果、子供は、対称的に2列に並ぶ黄色の斑点を持って生まれ、その斑点が二本の幅の広い黄色の縞になった。そして、3代目になると「一様にカナリア色」になった。

■サンバガエル実験

大部分のガマやカエルの類が水中でつがいになるのに対し、サンバガエル・アリテス・オブステトリカンスは、陸上で交尾する。

↑サンバガエル(画像は、こちらからお借りしました)

大部分のカエルは、水中で交尾をする際、雄は雌の腰を支え、かなりの期間(ときには何週間も)産卵を終えるまで雌を抱いている。その後、雄は精子で卵を受精させる。

雌のぬるぬるした身体を水中でしっかりと抱けるように、交尾期の雄ガエルの手のひらと指には、小さな角状のとげのある黒ずんだ色の隆起(婚姻瘤)が発達する。

陸上で交尾するサンバガエルの場合、雌の皮膚は比較的乾燥し、がさがさしているので、雄には婚姻瘤は必要なく、発達もしない。

雌はゼリー状のひもに付着した無数の卵を生み、雄はこれを受精させた後、この数珠のような卵帯を後肢に巻きつけ、孵化するまで持ち歩く。

カンメラーが、アリテスを数世代に渡って水中で交尾させると、第4世代で、婚姻瘤が発達していることを発見した。

また、カンメラーは、陸生のサンバガエルと、水生に変わったサンバガエルとの交配実験も行っている。この実験の様子は、『獲得形質の遺伝』 に記されている。

この実験については、新しい特徴を獲得したというよりも、先祖がえりではないかという反論があった。これに対して、カンメラーは、

「先祖返りであるのとの反論が常になされます。なぜこのアリテスに関する実験のみがこのようにたびたび問題の実験とみなされるのか、私にはよく納得がいきません。私の見解では、これは獲得形質遺伝の決定的証拠ではけっしてないのであります。」

と回答し、カンメラー自身は、婚姻瘤を獲得形質の遺伝の決定的証拠だとはみなしていなかった。

それに対して、ウィリアム・ベイトソンは、アリテスの実験を問題の実験だとみなし、争点を意図的に固定している。

1926年8月7日のNatureに、アメリカ自然科学博物館爬虫類部門の主事 G・K・ノーブル博士の投稿記事が載り、その中で、サンバガエルのアリテス標本にはごまかしがあったと断言した(カンメラー事件)。

サンバガエルを用いて行われた、陸生と水生の交雑実験について、遺伝子刷り込みと胚を特殊な環境にさらしたときにおこる遺伝子サイレンシングによって説明した論文が発表された(Vargas 2009)

 

■ ホヤの実験

カンメラーは、獲得形質の遺伝を証明するのは、ユウレイボヤ(チオナ・インテスティナリス)の研究であると信じていた。

画像は、こちらからお借りしました。

ユウレイボヤは、海底に住み、頭上に伸びている二本の管状の外延または水管を持ち、一方の管から海水を吸い込んではもう一方から吐き出している。カンメラーはこの水管を切断すると、もっと長い水管を再生すること、切断を繰り返せば繰り返すほど再生された水管は長くなり、ついには「怪物のように長い象の鼻」に似てくることを発見した。この水管が長くなる性質は遺伝すると主張した。


水管が長くなることは、イタリアの動物学者ミンガチーニによって、1891年にナポリで発見されており、その後、ロウブによって確認された。カンメラーは、ミンガチーニから、この実験のヒントを得たようだ。

ブルターニュのロスコフにある生物研究所員ムンロー・フォックスは、再生された水管の伸張に関する追試を行い、実験が失敗したことをNatureで発表した。

カンメラーがフォックスの実験の間違いを指摘したが取り上げられなかった。

この問題が持ち出されるたびに、フォックスの追試が持ち出され、ミンガチーニとロウブは無視される。

ユウレイボヤの実験が正しかったかどうかは、未だ確認されていない。

 

■プロテウスの眼

洞窟に住む盲目のイモリ、プロテウスは、眼となるべき部分が未発育のままで、皮膚の下に埋もれており、成長するにつれて退化する。

プロテウスの写真(画像は、wikiからお借りしました)

プロテウスは、普通の日の光にさらされても、視力を回復することはできない。それは、眼となるべき部分を覆っている皮膚が、眼の発達をはばむ黒い色素を帯び、暗闇のなかで成長する普通の動物と同じ退化過程を生じさせるからである。

カンメラーが、プロテウスを赤い光の下に置いたところ、完全に機能する大きな眼を持つ標本を作り出した。

■参考文献

Did Paul Kammerer Discover Epigenetic Inheritance? A Modern Look at the Controversial Midwife Toad Experiments


 

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