エピジェネティクス進化論

Like father like son(この親にしてこの子あり)

Yongsheng Liu博士による、獲得形質の遺伝についての最新レビューです。遺伝学のメインストリームからは無視されてきたもう一つの歴史を概観することができます。

Yongsheng Liu博士から日本語への翻訳許可をいただきましたので、こちらの翻訳を掲載します。

出典 : EMBO reports (2007) 8, 798 - 803

 

自然環境は常に移り変わっている。生物は、その変化に適応し続けなければならず、そこから新しい形質や行動が生まれてくる。新しい形質や行動が、どのような適応のメカニズムによるのかは、古代ギリシャ時代以来、哲学者や科学者の頭を悩ませてきた。実際、それは、1859年にチャールズ・ダーウィン(Charles Darwin 1809-1882)が『種の起源』を出版し、この難問の一部を解決するまで続いたのだった。ダーウィンは、生物の多様性や適応能力を説明するために、自然選択説を展開した。彼は、同じ種の個体間に生じるわずかな形質の違いによって、生存や生殖に有利になると、その有利な形質が子孫に伝わっていくと考えた。


だが、ダーウィンは、自然選択が作用するときに、最初にどのように多様性が生じるのかという問題については解答を与えなかった。このパズルのピースは、7年後、1866年にメンデル(Gregor Mendel 1822-1884)が遺伝法則を発表したときに埋められた。メンデルは数学モデルを用いて、どのようにして生物の表現型が遺伝子型に依存しているのか、そして遺伝子型がどのように親から子孫へ伝わって再構成され新しい多様性を作り出すのかを説明した。1953年に、ワトソン(James Watson)とクリック(Francis Crick)が、DNAの分子構造を公表し、どのようにして遺伝子が複製され遺伝するのかというメカニズムを説明したとき、ダーウィンとメンデルの説明は完結した。


ダーウィンは、『種の起源』の成功にもかかわらず、この理論だけでは、多様性が生じるメカニズムを説明できていないと考えるようになった。(Darwin, 1859) そして、晩年は、多様性が生じる隠されたメカニズムを明らかにするために多大な時間を費やして取り組んだ。彼は、自然選択と遺伝の法則がなくてはならないと信じていた。彼は、2巻からなる本、『The Variation of Animals and Plants under Domestication』 (Darwin, 1868)の中で自説を発表した。その中で、彼は「パンゲン仮説」を展開した。この理論により、環境からの作用で生じた組織の生理学的な変化、すなわち、獲得形質が、遺伝情報として符号化されなくても、子孫へ伝わることが可能である仕組みを説明した。さらに、
多様性や、遺伝や、発達に関係する多くの他の観察を説明することも可能だろう。しかし、科学者集団は、ダーウィンの自然選択説と、それを用いた進化の説明を広く受け入れたのに対し、「パンゲン仮説」のほうは、遺伝学者から間違いだと見なされ、無視された。


ダーウィンの死後1世紀以上過ぎた今でも、ゲノムに符号化されていない表現型が世代を超えて伝わるのか、そして、どうすればこれが可能なのかは、いまだ答えられずに残っている問題である。さらに、もし獲得形質の遺伝が起こったら、進化において重要な役割を担うのだろうか?


この疑問は2000年以上もの間、論争を巻き起こしてきたものであり、有名な科学者や哲学者を、どちらの立場であれ、魅了し続けてきたものである。やや逸話的だが、初期の獲得形質遺伝の支持者のうちの一人は、「医学の父」ヒポクラテス(Hippocrates of Cos II (ca. 460--370 BC))であった。彼は獲得形質の遺伝を固く信じていた。それは、神話的な人種、巨大頭蓋症の人々に対する観察に基づいていた。彼は、彼らの細長い頭について、次のように書いている。「この形質は、はじめは人為的に獲得されたものであるが、時が過ぎるにつれて、遺伝する形質になり、慣行はもはや必要なくなった。」 (Adams, 1891)


獲得形質の遺伝と進化との関係を論じたことで有名なのはラマルク(Jean-Baptiste Lamarck 1744-1829)である。彼は、1809年に出版した著書『動物哲学』(Philosophie Zoologique)のなかで、動物の活動や習性に環境が影響を与えると主張した。彼は、気候、食べ物、習性などが変化すると、それによって、動物や植物の大きさ、形、各部分の比率、色、硬さ、すばやさ、技能などに変化が起こり、その変化が子孫に受け継がれると考えた。(Lamarck 1809)


確かにダーウィンは多様性の原因を環境の変化と結びつけた。彼は、次のような見方を好んだ。「あらゆる種類と程度の多様性は、直接的、または、間接的に、現在の生物や、その祖先が一生のうちにさらされてきた状態によるのだ。もし
ある種の全ての個体が多くの世代にわたって完全に均一な状態に置かれることが可能だとしたら、多様性は存在しないであろう。」(Darwin, 1868)


しかしながら、獲得形質の遺伝を科学的に実証するために行われた、さまざまな初期の試みは、全て失敗に終わった。ほとんどの遺伝学者は、環境の影響で獲得した形質は、ほとんど遺伝しないし、進化のメカニズムを理解するためにも、商売でやっているブリーダーが血統について検討する場合でも、それらの例外は重要ではないという見方をとるようになった。


この立場の例として、ダーウィンと同時代であるワイスマン(August Weismann 1834-1914)が挙げられる。彼は、19世紀の最も影響力のある進化理論学者のひとりである。彼は、獲得形質の遺伝を完全に否定し、その代わりに、彼の理論である「「生殖質の連続性」で遺伝を説明した。彼は、受精卵の最初の分裂から、いわゆる生殖質は、後に有性生殖によって遺伝する細胞になることを運命づけられているという立場をとった。さらに、彼は、生殖質は、体細胞の原形質や環境から全く影響を受けることなく「安全に」複製されて、次世代に受け継がれるのだと主張した。そして、1889年には、獲得形質の遺伝を否定するために、オスとメスのマウスの尾を何世代にもわたって切り続け、尾が最初から切れている子供が生まれてこないことを示した。(Weismann, 1889) 


しかし、この実験は、獲得形質の遺伝が起こりえるのかどうかの検証として適切ではないという批判が起こった。なぜなら、マウスの尾を切ることは、外から加えた変更であり、獲得したものではないからである。実際、ラマルクは、尾の切除のような直接的な変化と、習性や環境の変化に対する反応として間接的に獲得した形質とを区別していた。ラマルクは、間接的に獲得した形質のみが子供に伝わると考えていた(Steele et al, 1998)。ダーウィンも同じような区別をしていた(Darwin, 1868)。
「ある器官や臓器が数世代に渡って除去されるかもしれない。そして、その手術によって病気にならないのなら、子孫では失われた器官は再生する。」 (Darwin, 1868)


獲得形質が遺伝するかどうかは、いまだに解答の出ていない問題なのだ。Otto Landman(1993) が指摘してきたように、獲得形質の遺伝は、実際に証拠があるのにも関わらず、自然科学においてあまり扱われていない。特に、バクテリアや他の下等生物では、それを支持する証拠がある。このような証拠は、過去2000年以上も蓄積してきている。しかし、最も重要なことに、厳密で科学的な証拠が、信用のできない証拠に20世紀を通して置き換わってきたのだ。その結果、獲得形質の遺伝の可能性を再評価するための動かせない事実に至ることになった。

例として、1964年に、Tchang Tso-Runたちは、人工的な下毛類の双体を繊毛虫(Stylonychia mytilus)の中に作った実験が挙げられる。(Tchang et al, 1964) 彼らは、繊毛虫が無性分裂を始めたときに、融合した大核と細胞質とを分離した。そして、分離されたものは、通常の背中合わせの配置ではなく、同じ平面に2つの腹面がある鏡像構造を持った双体へと成長した。これらの人工的な双体は、完全な生理能と増殖能を持ち、通常どおりに遺伝した。つまり、彼らの子孫は同じ表現型を持っていた。同様な手法を用いて、Gray Grimes(1980)らは、Pleurotricha lanceolataにおいて同様の結果を観察した。


1950年代に、Pyotr Sopikov (1903〜1977)らは、鳥において獲得形質の遺伝を導くことができたと主張した。彼らは、黒いオーストラロープ種の雌鳥からホワイトレグホーンの雌鳥へ輸血を繰り返すという方法を用いた。そして、ホワイトレグホーンのの雌鳥と雄鶏とが、輸血後に交尾した結果、表現形が変化することを発見した。(Sopikov, 1954) 重要なのは、1950年から1970年にかけて、他の研究者たちもSopikovの観察を確認したということだ。例えば、Maurice Strounらは、ホワイトレグホーンに灰色のホロホロ鳥の血液を繰り返し輸血すると、灰色、または、黒の斑点のある羽をした雛が、次の世代や、それ以降の世代に生まれるということを報告している。(Stroun et al 1963)


また、接木によって、遺伝的変化が引き起こされたという記録が数多く残っている。また、接木によってもたらされる雑種について最初にまとまった研究をしたのはダーウィンだ。2種類の異なる植物の細胞組織が融合した結果、雑種が生み出されたのだ。(Darwin 1868) Luther Burbank (1849〜1926) やIvan Michurin (1855〜1935)といった有名な育種家は、両方の原種の組織から得た獲得形質を遺伝させて、新しい植物を作った。それに加え、1950年代には、500を超えるこの種の論文が、ソビエトで公開されたが、西側の遺伝学者は、それらの文献を無視し、詐欺の結果に基づいている仕事だとして却下した。
10年以上ものあいだ、科学者たちは、独自に研究を進め、接木によって変化した植物の形質が安定であり、遺伝し得ることを何度も示してきた。(Liu, 2006a)


獲得形質の遺伝について、物理的な形態だけでなく、行動特性も遺伝されることが示されてきた。スウェーデンの科学者たちが最近示した、はっきりとした証拠は、現在のニワトリの祖先であるセキショクヤケイを飼育し、ストレスの大きい環境でホワイトレグホンを飼いならしたときに得られたものだ。彼らは、鳥が予想できないリズムで部屋を明るくしたり暗くしたりして、彼らの空間学習の能力を下げた。(Lindqvist et al, 2007) ストレスにさらされたホワイトレグホーンの雛は、親鳥と接触させずに育てられたが、ストレスを受けなかったホワイトレグホーンの雛に比べて空間学習の能力が下がった。ストレスを受けたホワイトレグホーンの雛は、ストレスを受けなかった親から生まれた雛よりも、より争いを好み、早く成長した。これは、ストレスに対する反応行動が、次の世代に受け継がれることを示唆している。


獲得形質の遺伝は、物理的、行動的形質に限定されない。1980年、GorczynskiとSteeleは、獲得形質の遺伝が、成長期の免疫系において、ある役割を果たしているという証拠を示した。彼らの研究によると、オスのマウスが新生児のときに獲得した外部のH-2に対する抗原特異性の免疫耐性は、高い比率(50-60%)で次の世代へ受け継がれる。さらに、第一世代のマウス同士で交配させると、第2世代の20−40%は、特別な耐性を示すが、それ以外は、元の耐性に戻る。(Gorczynski & Steele, 1980)
これらの実験を再現するために、何人かが実験を行ったが、肯定的なものと否定的なものの両方の結果が出たため、科学的な論争がさらに加熱した。ちょうど20年後の2004年、Hilmar Lemkeは、新生児のときに、母親が獲得した免疫グロブリンGの強い影響が見られることが、ゲノムによらない遺伝の例になっているのではないかと述べ、免疫系におけるラマルク説的な側面を明らかにした。


人間のおいても、非メンデル遺伝が起こっている証拠がある。1945と1946の冬、第2次世界大戦のためヨーロッパのいたるところでひどい食糧不足になった。そのため、妊娠期間の後期に1日の摂取カロリーが1000カロリー以下になる妊婦が続出した。
2006年、Ursula KyleとClaude Pichardは、これらの女性の新生児の体重と、出産時の母親の体重との間にはっきりとした相関があることを発見した。次の世代に伝わったのは、身体上、病理学上の変化だけではなかったのだ。オランダでは、研究者たちは、表現形が次の世代に伝わっていくのか調査を続けた。食べ物の制限をまったく受けずに育つ人がいるだろうか?
出産時の母親の体重と新生児の体重との間には、長期にわたり関連が見られた。(Susser & Stein, 1994)


同じように、Andreas Plagmannらは、母親が肥満だったり、糖尿病だったりすると、子供が高血圧になったり糖尿病になったりするリスクが高まることを示した。 (Harder et al, 2001a) 彼らは、この効果の説明として、体のインシュリンや他のホルモンの「既定値」のレベルが、胎児や新生児の時期に「設定」されてしまい、一生を通して、体の代謝によって「設定」されたレベルが維持されたり、それレベルへ引き戻されたりするのではないかと考えた。 (Harder et al, 2001b) しかし、もし、発生の早い段階において環境の影響でこの過程が乱されるたり、糖尿病や肥満のせいで母親のホルモンレベルが異常だったりすると、子供の「既定値」のレベルが正常範囲を越えてしまい、その後の代謝や病気のリスクに影響してしまうだろう。


つまり、環境からの影響で獲得した形質が遺伝するという証拠が増え続けているのだ。しかし、この理論(獲得形質の遺伝)が歴史的に受け入れられてこなかったため、獲得形質の遺伝をもとにメカニズムを説明する理論的枠組みが欠けているのだ。
ラマルクは獲得形質の遺伝を考慮に入れたのにもかかわらず、どのようにして遺伝するのかは示そうとしなかった。反対に、ダーウィンは遺伝のメカニズムを次のように理論化した。ダーウィン説によると、自らが「ジュミュール(gemmules)」と呼んだ小さな粒子または分子が存在し、環境に対する応答として細胞から放出される。放出されたジュミュールは体内を循環し、他の細胞へも同じ変化を引き起こす。そして、その中には生殖細胞も含まれる


ダーウィンのパンゲン説の現代版は、「体細胞選択」仮説である。この仮説は、体細胞に起こった変異情報が、どのようにして生殖細胞へ統合されるのかを説明するものである。この説によれば、内因性のレトロウィルスべクターが体細胞からRNAを取り込み、それを生殖細胞へ導入する。ひとたび中に入れば、運ばれてきたRNAは、組み換えによって生殖細胞の中へ逆転写されたり、接合されたりする。(Steele et al, 1998)それに加えて、ダーウィンが想定したジュミュールは、プリオンや、移動できる粒子などまだ知られていない分子によってDNAを巡回することができるかもしれない。 (Liu, 2006b) しかしながら、環境の作用により新生児の器官に生じた変化を運ぶさまざまな媒介者が存在することは、明らかなように見える。


たとえば、環境の作用により生じたゲノムの組み換えは、トランスポゾンによって行われる可能性がある。1993年に、トランスポゾンの発見で生理学または医学の分野のノーベル賞を受賞したBarbara McClintock(1902−1992)は、環境からのストレスがゲノムに遺伝的な変異を引き起こすきっかけ(トリガー)となりえることを確かめた。「私は、ゲノムを再構成することができるはたらきがなぜ生物に備わっているのかという疑問を抱いている。ゲノムの再構成を可能にする仕組みを学び、なぜ、トランスポゾンの多くは長期にわたり不活性であり、ストレスをきっかけに活動を始めるのかを明らかにする必要がある。


少なくとも植物では十分な証拠がある。さまざまな研究グループが、あるミネラル養分が一定量の濃度に達していれば、植物は異なる成長の仕方をすることを示してきた。このような表現型の変化は次世代へ伝わり、何世代も安定であり続ける。(Durrent, 1962) 環境の作用によって引き起こされた変化に関連するDNAの変化は、
さまざまな分野で述べられてきた。(Cullis, 2005)


獲得形質の遺伝について観察されてきたことは、分子生物学において現在考えられていることと一致するようになってきた。例えば、2000年に、Gerhard Riesらは、UV-Bを放射するとDNAの組み換えがArabidopsisサリドマイドやタバコで引き起こされることや、UV-Bがゲノムの安定性に与える影響が各世代において増加したことを報告した。この結果は、加えられた変化が遺伝することを示唆している。その変化は、DNA代謝と関連する遺伝子発現の中に見出される。同じように、Jean Molinier(2006)らは、波長の短い放射線をあてるか、フラゲリンを与えるかすると、シロイヌナズナ, アラビドプシスでは、体細胞において遺伝子改変レポーターが相同遺伝子組換えする量が増加した。さらに、組み換えのレベルは、処理を施さなかった世代になっても高いままであった。著者は、これらの研究から、環境要因によってゲノムの柔軟性が増し、その効果は、処理をほどこさなかった世代へも受け継がれると結論した。彼らは、この仕組みを、植物が環境の変化に適応するために潜在能力を増加させるメカニズムだと考えた。


これまでの間に、科学者集団は、プリオン(DNA担持粒子だけが伝染性の病原体でありえるという、もうひとつの科学的ドグマを転覆させてしまったタンパク質)が表現型の情報を遺伝させることができると考えるようになった。Susan Lindquistが酵母のプリオンsup35を用いて行った研究によって、プリオンタンパクがスイッチとして作用することが分かった。環境が悪化すると、sup35は[PS1+]の状態に変わり、翻訳の精度が下がり、リボソームがナンセンスコドンを超えて読みとってしまうのだ。すると今度は、サイレント遺伝子が発現し、変異体は新しい表減形を作り出す。[PS1+]は、娘細胞の中で正常なsup35タンパク質の立体構造を変換して変異体にしてしまうことで、自己複製する。(Shorter & Lindquist, 2005) より以前の論文で、Yury Chernoff (2001)は、プリオンは獲得形質遺伝のメカニズムになり得ると仮定していた。Peter Maury (2006)もまた、プリオンがβシートタンパクの立体構造の中に獲得した情報を蓄えて伝えるというメカニズムを考えた。これらは、細胞質内の分子メモリとして作用することができるし、留まり続けることができるという能力を生かして次世代へ遺伝することもできる。


ここ2,3年の間で注目が増してきているもうひとつのメカニズムはエピジェネティクスである。Conrad Hal Waddington (1905-1975)は、初めて「エピジェネティクス」を、表現型を取り込む環境と遺伝子との相互作用として定義した。(Waddington,1942) 彼は獲得形質の遺伝の強烈な支持者である。Waddingtonは正しかったのかもしれない。Lindqvistらは、2007年に、鶏を用いた実験結果から、エピジェネティックな修飾が、ストレスや生理学的な応答を次の世代へ伝えるメカニズムであるかもしれないという結論を出した。より一般的に言うと、エピジェネティックなメカニズムは、環境からの作用で生じた表現型を次の世代へ伝えることを可能にする半独立な非メンデル遺伝システムと折り合いをつけるのだ。(Jablonka & Lamb,1998)


マウスを用いた研究によって、このことに対する実験的な証拠が得られた。葉酸、ビタミンB12コリン、ベタインをメチル化供与体へ追加した食餌を母親マウスに与えると、子供の毛皮の色が茶色の仮性アグーチの表現型に変わるのだ。(Wolff et al, 1998; Waterland &Jirtle, 2003)。食餌によって引き起こされた毛皮の色の分布の変化は、intracisternal A-particle(IAP)転写可能エレメントの上流にある部位のDNAメチル化が増加したからだと考えられる。(Waterland & Jirtle, 2003)それゆえ、母親が妊娠しているときの食餌が子供に与える影響は、DNAメチル化と直接的に結び付けられた。(Cropley et al, 2006) Tessa Roseboomらは、受胎する前に起こった刷り込みなどのエピジェネティックな変化によって、次の世代の
におけるDutch Famineの効果を説明することができるようになるのではいかと考えた。(Tessa Roseboom et al,2006)


Root Gorelickは、さらに進め、病気のエピジェネティクス遺伝の効果を表現するためにネオマルキシズム的治療という言葉を作り出した。これは、細胞分裂をコントロールしている遺伝子の上方制御や、癌抑制遺伝子を下方制御することによって、癌のリスクを減少させるだけでなく、他の多くの病気発生のメカニズムであるかもしれない。このようなエピジェネティックな変化は遺伝することが可能である。それゆえ、病気のリスクが増加すると、そのリスクも次の子孫へ遺伝してしまう。子孫が、もはや汚染物質にさらされていないとしても、病気のリスクを受け継いでしまうのだ。


遺伝子水平伝播(生殖的隔離を超えた遺伝子の交換)が長い間、原核生物においては、進化の主な原動力であると考えられてきた。特に、原核生物においてはそうであった。しかし、遺伝子水平伝播が高等生物においても起こるという証拠が、次々と見つかってきた。Ulfar Bergthorssonら(2003)は、ミトコンドリアの遺伝子が、遺伝子重複や、細胞核へ移動した遺伝子の再捕捉や、キメラなど、多様なゲノムを持つ遠縁の被子植物間で頻繁に移動していることを示した。これらの結果から、親類でない植物の間でDNAが「交換」されるメカニズムが存在することが示唆される。最近、Jeffrey Mower(2004)たちは、寄生している被子植物から宿主の被子植物へ遺伝子が水平伝播する2つの新しい事例を報告した。そして、これらが、直接的な物理的接触の結果として起こるという系統学的、かつ、地理学的証拠が存在すること述べた。彼らの発見は、遺伝子が反対方向、つまり、宿主から寄生者へ移動することが可能だという過去の発見を補完する。(Davis & Wurdack, 2004)


特に、Ivan Michurinの育種の基本原理は、植物が発生の初期段階にあるときに、環境を操作して表現形の変化を引き起こすことである。彼は、植物を「改良」するために接木を用いた。そして、若い植物を用いたほうがより実験が成功しやすいと述べた。 (Michurin, 1949).最近の接木を用いた実験によると、内在するmRNAが師部を遠距離輸送システムとして用いていることが分かってきた。(Lucas et al, 2001) さらに、タンパク質や核酸を含む他の高分子も細胞間を輸送されることは、若く未分化な組織においてもっともルーズであり、組織の年齢が増加するにつれて制限されるようになる。(Ueki & Citovsky, 2005) mRNAが植物間を動き回ることができることや、レトロウィルスやレトロトランスポゾンがmRNAからcRNAへ逆転写することができることと関連して、接木をすることにより、接ぎ穂から接木へ、また、その逆の遺伝子水平伝播のメカニズムが存在することが明らかになってきた。


Moritz Wagnerへの手紙の中で、ダーウィンは次のように書いている。「私の意見では、私が犯した最も大きな間違いは、自然選択とは独立に、食べ物や気候といった環境が直接与える作用に対して重要視しなかったことである。私が『種の起源』を書いたとき、また、それから数年の間に、私は環境が直接作用するささやかな証拠を見つけていた。今では、大量の証拠がある。」(Darwin, 1888) 過去10年間の間に、量においても質においても獲得形質が遺伝するという証拠は増え続けてきている。同様に、分子レベルでの現象を説明する仮説の数も増えている。その結果、獲得形質の遺伝に対する観察が、分子生物学における現在の考えに適合するようになってきている。(Landman, 1991) このことが、ワイスマンとメンデルによってなされた重要な貢献を拒絶しているのにも関わらず、また、ラマルクやルイセンコを復活させているのにも関わらず、それにもかかわらず、新しい光を獲得形質の遺伝の上に放っている。


ひとたび、広く無視された理論が、ついには、科学的知識の主流になった先例は、たくさんある。1940年代の初めWaddingtonは、エピジェネティクスという言葉を作った。彼は、アリストテレスのエピジェネティクス論からとったのだ。1980年代まで、エピジェネティクスは科学論文のなかで使われることはほとんどなかったが、実験による証拠によってその存在と重要性が支持されるようになるにつれて、1990年代以降は、大量に用いられるようになった。同様に、Stanley Prusinerが、プリオンが伝染性の病原体であることを発見したが、これは、科学共同体からながいあいだ無視されていた。しかし、今では、しだいに受け入れられている。


数多くの証拠に照らしたときに、我々はダーウィンのパンゲン説、環境からの作用で生じた変化がどのように遺伝するのかというメカニズムを説明したあの理論を無視し続けることができるであろうか? 我々は、ダーウィンのパンゲン説を豊かにし、拡張し、対象範囲が広く、豊富な実験的証拠に矛盾しないような遺伝の現代的な理論を作ることを必要としているのではないか? どのように獲得形質が遺伝するのかをより広く理解すれば、遺伝子やメンデル遺伝より多くのものが遺伝することを示すのみならず、新しい知的な挑戦や、進化に対するより広い見方が生まれるであろう。


ダーウィンはHookerへ次のように書いている。「もしパンゲン説が死産であるときには、神のご加護により、いつか再出現し、他の父により生み出され、他の名前で洗礼されることを確信していると私が述べたなら、あなたは私をとても自己充足的だと考えたでしょう。あなたは、一生のうちで起こったものについて実体的でよく見えるもの出会ったことがありますか? 種や芽や、長く失われていた性質が再現できる方法や、雄の要素が母の植物や動物へ影響することができる方法、その結果、子孫が影響を受けるような。今、これらや他の多くのものが互いにつながり、正しいか間違っているかがパンゲン説によって新たな問題となる。ご存知のように、私は簡単には死なないし、かわいそうな子供(パンゲン説)を弁護する。」 (Darwin, 1988)

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関連リンク

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